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EP20「破られし静寂」

 -2012年 12月某日 PM04:38 神奈川 静揺高校 屋上-

陽子「もう少しで卒業だね。」

 屋上のフェンスに座って寄りかかり、夕日を眺めながらポツリと呟いた。

静流「青葉はこれからどうするんだ?」
陽子「成績優秀の神崎君がそれを聞くなんて、私見下げられてる?」

 いたずらな目をして、俺を見た。

静流「そんなつもりで言ったんじゃないが・・・。」

 俺はそれから目を逸らした。

陽子「う~ん、そうだね~・・・。とりあえずお嫁さんになりたいかな。」
静流「物事が飛躍しすぎてないか?」
陽子「飛躍してないよ、だって素敵な彼氏がここにいるんだもん。」

 そういって立ったままフェンスに寄りかかり、ポケットを突っ込む俺に近づいてきた。

陽子「神崎君は将来何するの?」
静流「俺は――。」


 EP20「破られし静寂」


 -2013年 1/12 PM09:23 神奈川 青葉家-

 青葉家のリビングでバラエティー番組を見ながら、俺は注がれたお茶で一腹していた。

陽子「ごめんね、なんか強引に泊めさせちゃって。」
静流「いいって。それより謝るのは俺のほうだ。」

 俺は青葉家のパソコンが故障し、それを直しにここに来た。一応回復はしたが、時間がかなりかかってしまった。
それ故にそこそこ家が遠い俺は陽子の強引な押しでここに泊まる事となった。
 ちなみに今日は青葉家の両親とも仕事に行っており、山岳付近にある気象観測基地にいる。

優子「神崎先輩、ず~っとここに居てもいいですよ。
   その方がお姉さんも喜びますし。」

 にこやかに陽子の妹、優子が言う。

陽子「優子~!余計なことは言わないの!」
優子「だって、本当の事じゃないですか。」
静流「ははっ、まぁほんの少し頭の片隅に置いておくよ。」

 そう言って、俺はお茶を取ろうとした。その時、かたかたと小物が小刻みに動く音がした。
お茶の水面も大きく波打ち始める。咄嗟の事で頭が回らなかったが、次の瞬間が来る前に俺は全てを理解した。
 揺れが一気に大きくなり、辺りの置物や食器が落ちたり割れたりする音と、悲鳴の声が聞こえた。

静流「地震・・・!?」

 激しい揺れが十秒程度続いて、ようやくそれは治まった。
 人の家である事も忘れ、俺はテレビのリモコンでチャンネルを回し始めた。地震速報を見るためだ。
今の揺れは尋常ではない。
 二順した時、ようやく一つの番組の上に地震速報のテロップが出ているチャンネルを見つけた。

 -地震速報 本日9時25分頃にマグニチュード6.5の地震発生-

陽子「神崎君!」
静流「とりあえずドアを開けて、ガスの元栓締めておけ!」

 生きてきた中で、初めて小学校や中学校の頃の避難訓練と、その時の教訓を活用する時が来た。
 数分後、俺たちはいつでも逃げられるように食料と様々な道具をリュックに入れ、いつでも逃げ出せる準備を完了させていた。
3人で真剣にニュースを見ていると、ただちに市町村が指定する避難場所へ逃げろという指示が出た。
どうやら震源地は近かったらしく、俺たちが住んでいるところも避難指示範囲に入っていた。

優子「どうしよう!お父さん達に電話繋がらないよ!」

 携帯を握りながら、優子が泣き出しそうな顔をする。

陽子「そ、そんな・・・。」
静流「2人は中学校に避難しておけ。」

 指示を聞いて、玄関を出た後に俺は言った。

陽子「神崎君はどうするの?」
静流「青葉のおやっさん達見てくる。
   あそこは山の下だから土砂崩れとかがあってるかもしれない。」

 そういいながら、俺は自分の原付バイクに鍵を差した。

陽子「それなら私も行く!」
優子「私だって行きます!」
静流「だめだ!陽子は優子を連れて早く行け!」

 鍵を回し、エンジンを蒸した。

静流「青葉、お前は大切な家族を守る義務があるはずだ。」
陽子「それなら私だって!」
静流「お前は今できる事をするんだ!」

 俺の言葉に、陽子は下を向きながら優子の手を握った。

陽子「絶対・・・帰ってきてよ。」
静流「あぁ、約束する。」

 涙を零しながら、陽子は振り返り、優子を連れて中学校へと向った。


 -PM09:49 神奈川県 気象観測基地-

 俺は入り口にバイクを止めると、少々高いフェンスをよじ登り、敷地内へと侵入した。
 基地は停電して真っ暗になっていた。ひび割れているガラスのドアをヘルメットで叩き割り、中へ入った。
外の明かりが無いのだから建物内も当然停電していた。薄っすら差し込む月明かりと、携帯の光だけが頼りだった。
 中は酷いほどに荒れており、資料や機材やらが無造作に散らばっていた。その中で一枚、気になるものがあった。

静流「ARS・・・極秘資料・・・?」

 手に取り、携帯の明かりでそれを見た。裏には"リネクサス所有の未完成機神の保管について"と書かれてある。
ARS、機神、リネクサス、訳のわからない単語が俺の頭を駆け巡った。
 よく見ると、これは冊子状の資料になっていたらしく、下を見ると何枚か続きがあった。だが、それを手に取る前に事態は悪化した。
 奥から聞こえる銃声に、俺は悲鳴を上げそうになった。

???「ま、まってくれ!分かった!あの機神が隠してある場所を教える!」

 焦った男の声が聞こえてきた。胸が破裂しそうに高鳴る鼓動を抑え、俺は呼吸を整えながらその会話を聞いた。

???「この基地のどこかに極秘資料があるはずだ!それに全て書いてある!」
???「じゃあそれを持って来い!じゃないともう一発打つぞ!」

 俺は心臓を吐き出しそうになった。きっとさっきの"オーガノイド"という単語からして、極秘資料というのは今足元に散乱しているコレのことだろう。
勇気を振り絞り、俺は散らばっている紙を全て回収し、一目散にここをでた。
 基地を出てから一目散にバイクのところまで駆け寄った。ヘルメットを置きっぱなしにしたことも忘れるほどに焦っていた。
 フェンスを飛び越えて、俺は携帯の明かりでその極秘資料とやらを読んだ。
 分かったことは三つ。それが巨大なロボットであること。それが山中に埋められていること。
そして、それをリネクサスに渡してはならないこと。
 それを把握すると、基地から銃声が鳴った。きっとさっきの男が殺されたのだろう。俺がこれを持ち出したばかりに。
だが文章を見る限り命に代えてでも、その機神とやらはリネクサスの手に渡してはならないらしい。
 俺は無関係な争いに介入し、勝手に勝ち誇った気持ちでいた。機神を守ったという事に。

静流「・・・・!!」

 俺はようやく事の重大さを察した。ここは気象観測基地のはず。なのになぜこの巨大ロボットに関する資料があったのか。
そしてさっきの男の声、今思えば青葉の父親とそっくりだった。
 手が震える。足に力が入らず、自分がしたことの重大さで押しつぶされそうになる。

静流「うあぁぁぁぁ!!!!」

 わけも分からず、俺は泣き叫んでいた。その声に気付いてか、巨大な2人の巨人が空から降りてきた。
その音で俺の叫び声がかき消されている事を遅れて気付いた。
 恐怖が襲い来る。巨人の持つ、闇に光るピンクの一つ目が俺を捉えた。

???「おい、そこのお前!」

 その声を聞いて、俺はバイクのエンジンをかけて我武者羅に走り出した。
 胸が苦しい、涙が大量に溢れている。自分がしてしまった罪の重さを心で痛感していた。
このまま逃げていいのか、罪を償わなくていいのか。俺はあの時青葉に宣言した事を思い出した。

 屋上で言った、あの言葉を。

 ――俺は、青葉 陽子を幸せにする。――

 それを叶えるために、敵討ちをしなくちゃならない。俺はバイクの向う方向を山中へ向けた。


 -PM10:07 神奈川県 某山中-

 バイクを投げ捨て、俺は一目散に手に握り締めた極秘資料が記す場所に向っていた。転んで泥だらけになろうと、俺の脚は止まる事はなかった。
草や枝の切れ端で肌が切れる。痛みは恐怖が、怒りが、期待が消し去ってくれた。

静流「ここか!」

 ちょっと開けた空間に、極秘資料に書かれているとおり"この先地盤が緩んでいるため立ち入り禁止"と書かれたフェンスがあった。
そのフェンスによじ登り、鉄線に刺さらないように気をつけながら内側へと入って行った。
 その時、爆発音が鳴った。見ると、街の方から火が出ている。そこに居るのは灰色の巨人、きっとさっき見た巨人だ。
あれはロボットであったことに今気付いた。

静流「早くしないと・・・。」

 俺は先を急いだ。すると、いかにも基地といった機材が不審に数個置かれてある平地へと出た。
そこで俺は資料を急いで捲り、この端末の操作を始めた。資料通りに操作していくと、少し地面が揺れた。
地震とは違う揺れを感じながら、俺の後方に広がる平地に一直線の亀裂が入り、地面が左右に分かれた。

陽子「神崎君!」
静流「あ、青葉!?」

 俺が来た道から、懐中電灯を握り締めた青葉が現れた。

静流「一体どうしてここに!?」
陽子「さっき私も観測基地に行こうとしたら、神崎君がこの山に入っていくのが見えたから・・・。
   それに、さっきの爆発・・・。」
静流「青葉・・・。どうやらここにあの巨人に対抗するロボが眠っているらしい。
   俺はそれに乗って、あいつらを倒す。」

 街の炎に照らされている灰色の巨人を指差して言った。

陽子「な、なんでこんな所にロボットが・・・!?」
静流「理由は分からない。だが、アイツらが狙っているのはここにあるロボらしい。」

 俺はゆっくりと開いた地面の下を覗いた。そこにある、ダークグレーの機体。
資料に載ってあった名前は"アビューズ"。

陽子「嘘でしょ・・・。」
静流「陽子、お前は今度こそここにいろ。」
陽子「嫌!私も一緒に行く!」

 そういって、俺の腕を泣きながら掴んだ。

静流「・・・この先、何が起こるかわからない。」
陽子「分かってる。」

 くしゃくしゃな顔になりながら、青葉はうなずいた。

静流「行くぞ、青葉。」

 掴まれた腕を解き、青葉の右手を握って俺は地中に続く階段をかけ下りた。
少し行くと、アビューズの胸元まで来た。ダークグレーの胸が前にせり出し、その中には一人分の座席が用意されていた。

静流「ここが操縦席か。」

 俺は覚悟をきめて、その装甲に触れた。勢いをつけて、コクピットに登り、座席に座った。
 その瞬間、俺の頭の中を何かが突き抜けた。ほんの一瞬で、俺はコイツの全てを知ってしまった。

陽子「よい・・・っしょ。」

 陽子も遅れてコクピットに乗り込んできた。それを確認すると、俺はコクピットのあるボタンを押した。
せり出した胸元が機体中に納まり、周囲のモニターが明滅しだす。

陽子「神崎君、動かせるの・・・?」
静流「分からない。だが、動かせない自信は不思議とない。」

 明滅する電子画面に映されている一つ一つが理解できていった。稼働率、周囲の状況などが一目で分かった。

静流「しっかり掴まってろ!」

 両側のレバーを引いて倒す。アビューズはしゃがみ、足を伸ばして跳ね上がった。その飛距離は凄まじく、一瞬にして山の表面に出た。

???「見つけたぞ!あそこだ!」

 灰色の機体がこちらを向く。2機は急いでアビューズに向ってきた。

静流「やってやる!!」

 知ったばかりのはずの操縦で、すぐにアビューズは山を降りた。灰色の機体はマシンガンを連射する。
だが、アビューズの装甲はあまりダメージを受けていないようだ。さすがは敵が血眼になって探している物だ。
 もう一機は小型の剣を取り出し、接近戦を仕掛けてきた。後に下がり、その攻撃を回避する。

静流「はぁっ!」

 まだ攻撃モーションを続けている敵の腹部にアビューズのパンチを入れる。その衝撃で灰色の機体は後に倒れこんだ。

静流「行ける・・・コイツなら!」

 そう思ったのはこの時だけだった。

陽子「神崎君!後!!」
静流「あぁ!」

 後を振り返ろうとする。だがアビューズがそれについてこない。

静流「ど、どうしたんだ!動け!!」

 レバーを押したり引いたりするも、アビューズは一切動かなくなった。長い間封印されたので劣化しているのか。
だが、パッと見た時にはコイツにはサビの一つも無かったはず。
 後から来る巨人の構えるライフルの銃口から弾丸が放たれた。途端アビューズは飛翔に等しいほどのジャンプをした。
高く飛び、そのまま巨人の真上に着地する。灰色の装甲が音を立ててひしゃげた。

???「な、何!?」

 アビューズが巨人の頭を引きちぎった。その頭を無造作に投げ捨てる。ピンク色の目の発光が無くなっていた。

静流「止まれ!!アビューズ!!」

 レバーを操作しながら俺は思いだした。あの極秘資料の文字を。
"リネクサス所有の未完成機神"と書かれてあった文字を。つまりコイツは未完成の存在。
未完成ならば制御不可能な状態に陥ろうが不思議なことではない。また俺はとんでもない事のトリガーを引いてしまったようだ。
 アビューズはなおも暴走行為を続けていた。頭の無い灰色の機体をボコボコにタコ殴りしている。

???「やめろ、やめ―――」

 恐怖に脅えた声が止まった。アビューズの拳が巨人の胸部を貫通していた。

???「よくも!!」

 倒れていたもう一機が起き上がり、腰に携帯していたライフルを発砲した。アビューズはそれを物ともせず、ゆっくりと近づいていく。
左手で相手の首を掴み、それを思いっきり投げた。
 灰色の巨体が宙を舞う。それは観測基地の真上に落ちた。基地が音を立てて崩れ、所々から爆発が起きる。

陽子「いや・・・あぁ・・・いやあぁぁっ!!」

 青葉の叫び声が狭いコクピット内にこだまする。今の状態では、仮に青葉の両親が生きていたとしても確実に死んだだろう。
すでに死んでいることが不幸中の幸いだった。

静流「くそっ!!止まりやがれ!!」

 その制止を無視し、アビューズは基地を押しつぶしている灰色の巨人の腹部を踏み潰した。

???「ぐあぁぁぁっ!!」

 重みで巨人が上下真っ二つに千切れる。アビューズは上半身を掴み、さらに地面に何度も叩き付けた。
灰色の装甲が辺りに散らばる。
 数十秒前から敵の叫び声が消えていた。きっと死んでいるのだろう。

静流「この野朗っ!!」

 俺は素手でアビューズの電子モニターを殴った。モニターが割れ、アビューズは機能停止した。


 -時刻不明 某所 医務室-


 俺はあの事件の後、気を失っていたらしい。見知らぬベッドの上に寝かせられていた。

剛士郎「やぁ、意識は戻ったかい?」

 傍らから男の声が聞こえた。体を起こし、その男の方を向く。

静流「あなた・・・は?」
剛士郎「ARSの総司令を勤めている、吉良 剛士郎だ。
    よろしく、神崎君。」

 ニッコリと笑って、吉良と名乗った男は手を差し出した。

静流「何ですか、そのARSって。」

 その手が求めていた握手を俺は拒否して吉良を睨んだ。

剛士郎「ちょっと散歩でもしようか。
    君に見せたいものもあるからね。」

 握手を断ったというのに、嫌な顔一つせずに吉良は椅子から立ち上がった。
俺もベッドから降り、横に並べてあった靴を履いて吉良の後に続いた。


 -1/13 AM00:45 ARS本部-


剛士郎「まずは君を我々の私事に巻き込んでしまったことを謝るよ。
    すまない、神崎君。」
静流「あのオーガノイドって奴の事ですか?」
剛士郎「あぁ、それも含めてだ。」

 も、と言ったが、俺には他に巻き込まれた事の自覚が無かった。

静流「あれに勝手に乗った事は謝ります。
   でも、仕方ない事だったんです!」
剛士郎「確かに。正義感の強い人なら、あの状況じゃぁこうするしかないね。
    でも、それが君の人生を変えてしまったんだ。」
静流「まさか・・・秘密保持のために殺されるとか・・・?」

 嫌な予感が胸をよぎった。

剛士郎「ははっ、それもあるかもしれないけど、君は死ぬことができない。
    我々も君を簡単に殺すことができない。」

 この男の言っている意味が分からなかった。ドラッグでもやっているのだろうか。
さっきからのこの笑顔といい、俺は不気味な感じがしていた。

静流「俺は神でもなんでもない。"普通の"高校生ですよ?」
剛士郎「それは間違いだ。」
静流「・・・?」
剛士郎「君は普通から逸脱したんだ、ドライヴァーになるという形でね。」

 俺は耳を疑った。いや、疑わざるを得ない。この数時間の間に、自分が普通から逸脱した。
そんな事を言われて信用できるわけがない。むしろ何をどう逸脱しているのか実感がない。
 だが、さっきまでの笑顔が消えた吉良の表情が、事の深刻さを物語っていた。

静流「ドライヴァー・・・。」
剛士郎「君はあの未完成機神"アビューズ"に乗った事で、あれのドライヴァーとなったんだ。」

 その後、吉良から教えてもらった事は二つ。一つ目は、ドライヴァーは日常生活では死なない事。
俺が死ぬ条件はアビューズに乗っている時に殺された場合だそうだ。それ以外の場合は致死量を超えた傷を受けても蘇るらしい。
 二つ目は、俺が存在しているうちに俺以外が今後あの機神を操ることは不可能であると言う事。
つまり俺はアビューズのコアとなったというわけだ。ちなみに機神は多少の傷は事故修復できるらしい。
 大雑把にまとめると、コアとして俺はアビューズの一部となったから、死んだとしても生き返ると仮定していいだろう。

剛士郎「さぁ、着いたよ。」

 頭の中で話を整理していると、とてつもなく巨大な倉庫のような場所に来ていた。奥を見ると、ライトアップされたアビューズの姿があった。

剛士郎「残念だけど、あれはまだ未完成な機神だったんだ。我々が多くの犠牲を出して奪ったものだがね。」
静流「完成の目処はあるんですか?」
剛士郎「あぁ、今からあの機神を生まれ変わらせるよ。
    "力の乱用(アビューズ)"から、"静寂(スティルネス)"へとね。」

 -数日後-

 俺はARSに仮入社することで、こ俺は世界の裏側を見ることが出来た。
決して嬉しくもなく、優越感に浸れるわけでもなかったが、それでも衝撃的な世界は違う俺を生み出した。
今までに起きた大事件の数割はリネクサスの強襲がらみで起こった事件であること。もちろん先日の事件もこれに当たる。
リネクサスの強襲を阻止するために、裏では大きな組織が動いていること。
 どれも口止めをされたが、話しても信じてもらえそうな人は居なかった。
 そう考えていると、あの事件以来、青葉とは連絡を取っていない事に気付いた。
事件の後、ARSの手配によって青葉は自宅へと帰されたそうだ。幸い気絶していたため、事件現場近くで倒れていたという設定でだ。
どうもARSの権力というのは凄い物らしい。
 事件周辺の学校すらも事の収拾がつくまで臨時休校にしてしまっている。俺たちの高校もその範囲内だ。
故に青葉と会う機会はARSの事もあり、一切無かった。
 俺はARSからの帰りに青葉の家へと向った。事の真実を伝えなくてはならないから。
 インターホンを押すと、妹の優子が出迎えてくれた。

優子「あ、神崎先輩・・・。」
静流「久しぶり、陽子は――」
陽子「出てって!!」

 様子を聞こうとした途端、家の中から物凄い怒鳴り声が聞こえてきた。

静流「陽子、居るんだったら聞いてくれ!」
陽子「うるさい!!」

 家から出てきた陽子の姿は、怒り狂った鬼の様だった。血走った目で俺を睨みつけている。

陽子「あんたの所為で・・・お父さんも・・・お母さんも・・・!!」
静流「違うんだ!あれは・・・。」

 何が違うんだ。俺はあの時、止めに入ることもしなかった。機神が暴れた以前に、俺は俺の所為で青葉の両親を殺していた。
銃を構えた男に脅え、助かったかもしれない可能性を摘みとり、俺は傍観者になっていた。

陽子「帰って・・・もう、あんたの顔なんか見たくない・・・。」

 優子の手を強引に引っ張り、陽子は家のドアを閉めた。家の前で、俺は涙を流していた。


 -2009年 1/13 AM09:32 ARS司令室-

 昨日の攻撃から一夜明け、俺たちは神崎の過去の話を聞いていた。

静流「そして、私はその事への罪滅ぼしとして正式にARSに入る事を決めた。」
暁「そんな過去が・・・。」

 神崎の話す事はかなり衝撃的だった。神崎の性格があまり明るくない方であるのも、何となく納得がいった。
 同時に、親父が言っていて言葉を思い出した。"忘れていたほうが別れが来たときに辛くなくなるから"。
近ければ近いほど、それだけ悲しみが深くなっていくのは実感は出来ないが、理解することはできた。

静流「きっと青葉が私を倒そうとしているのはその復讐のためだ。
   私も私自身でこの事に蹴りをつける。」
佑作「ちょ、それって・・・青葉さんを殺すって事っすか!?」

 神崎は黙って小さく頷いた。

暁「何でですか!ちゃんと話し合えば、済むことじゃないですか!」
静流「それが出来るのなら、初めからしている!」

 その時、警報音がこの空気を割いた。続いて大きな爆発音が鳴り響く。

雪乃「な、何が起こったの!?」

 外を見ると、昨日戦った重装備の機体と量産機が4機並んでいた。

陽子「ARS所属の各員に告ぐ。
   国家反逆罪として、政府の命令により現時点を持ってARSを解散させる。」
剛士郎「う~ん、ついにここまで来てしまったか・・・。」

 吉良はがくっと肩を落とした。

陽子「抵抗しない者には危害は加えない事を約束する。
   速やかにここを立ち退いてもらう。」
暁「くそっ!エイオスで追い返してやる!」

 俺はあまりの理不尽な要求に、壁を叩いて怒りを露にしていた。

かりん「アタシも行くよ。あーゆーの超ウザったいし。」
佑作「俺だって!」
剛士郎「いや、ここは大人しく従おう。」

 静かに吉良が言った。俺はその言葉が信じられなかった。ARSをそんな簡単に手放していいのだろうか。
何のためのARSなのか。何のために俺は決意を固めてARSに入ったのか。
 怒りが頂点に達しそうになったとき、再び吉良は口を開いた。

剛士郎「・・・と、いいたいけどね。
    生憎、我々にもプライドというものがあってね。」
暁「司令・・・!」
雪乃「でも、そうはさせてくれないみたいよ。」
剛士郎「どういう意味かい?」

 有坂が通信の音声を拡散状態にさせた。

準「あーあー、聞こえてる?
  こっちの機神も疑似機神も魔神機も、全部機能が停止しちゃててさ。
  どうやらハッキングで先手を打たれたみたいなんだ・・・。」
レドナ「なんてこった・・・。」
準「向こうには茜さんがいるから、こっちの把握している情報は向こうも持ってるんだよ。」
静流「・・・と言うことは。」

 突然神崎の口元が少し笑みを浮かべた気がした。

静流「私が出る。"奴"の情報は鳳覇 茜が来る前に抹消されている。
   向こうもハッキングする術がないはず。」
剛士郎「使うかね?"力の乱用(アビューズ)"を。」

 神崎は黙って頷いた。

準「分かった、急いで準備をするよ。」
静流「頼む。ついでにドラグーンと、ルージュのシールドを装備させておいてくれ。
   さすがに素手で5機相手はきついからな。」

 そういうと、神崎は急いでハンガーへと向った。

剛士郎「さて、我々は投降するふりでもしよう。」


 -同刻 ARS機神・疑似機神ハンガー-


 私は目の前にある蒼く輝く装甲を被った悪魔を見つめていた。もう一度、これを取る日が来るとは。
コクピットに入り、私は発進の指示を待った。数秒後、目の前のランプが緑色に光る。

静流「神崎 静流、スティルネス出る!」

 一瞬のうちに、スティルネスは地上まで引っ張り上げられた。蒼い装甲が日の光で美しく輝く。

陽子「な、何!スティルネス!?」
優子「向こうの機神・疑似機神はハッキングで行動不能状態のはずです・・・!」
静流「お前達が知っているのは偽りの姿。」

 私はコクピット内部に封印していたボタンを押した。蒼い装甲が浮き出す。

静流「これが本当の姿だ!現れろ、アビューズ!!」

 蒼い装甲が剥がれ落ち、ダークグレーのアビューズが姿を現した。

陽子「あ・・・あれは!!」

 やはり敵にはスティルネス=アビューズという情報は漏れていないようだ。
それならば、心理的状況を考慮も考慮して、若干の有利が生まれる。

静流「行くぞ、アビューズ!」

 蹴りをつける。今まで怖くて出来なかった事を、今ここで終らせる。
 アビューズは右手に握るドラグーンを振りかざし、立ちはだかる5つの機影に向っていった。


 -EP20 END-


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